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2019/05/08

検索の「意図」を読み取り、顧客体験にイノベーションを

この記事のポイント
  • ❶購入履歴ではなく、検索ワードからの商品レコメンドを実現
  • ❷驚異的な業績アップにつながったECサイトも
  • ❸意図を「解釈」するアルゴリズムのポテンシャル

インドのテック都市・バンガロールで次々に生まれる気鋭のスタートアップ企業。なかでもECサイトの領域で頭角を現したのが、革新的な商品検索アルゴリズムを開発した「UNBXD」です。ユーザーの検索「意図」を解釈し、きわめて高い精度で欲しい商品をレコメンドするテクノロジーの秘密に迫ります。

「欲しいもの」を汲み取る、賢い検索アルゴリズム。

今や多くの人にとって、生活に欠かせない存在であるECサイト。消耗品から家具に至るまで、あらゆる商品がインターネットで購入できますが、商品のジャンルによっては「欲しいものがなかなか見つからない」というケースもあります。たとえば、あるECサイトでベルトを探しているときに、「茶色 革 ベルト」といったワードで検索したとしましょう。すると、商品名やタグに「革」と記載していない商品はヒットしなかったり、反対に「ショルダーベルト付きのバッグ」がヒットしてしまったりと、目当ての商品にスマートにたどり着けないこともしばしば。

これは、単語レベルの検索機能しか実装していないことが要因です。かといって調べる段階で詳細に商品カテゴリを選択し、色や素材などを細かくチェックボックスで選ぶのも、煩わしいもの。理想的な顧客体験とはいえません。
この課題をクリアするために、ユーザーの「欲しいもの」を的確に汲み取る検索アルゴリズムを開発したのが、インドのスタートアップ企業「UNBXD」です。

同社の開発したアルゴリズムは、「茶色 革 ベルト」という検索ワードから「色(茶色)」、「素材(革)」、「アイテム(ベルト)」というカテゴリの情報を抽出した上で検索を行います。そのため「ショルダーベルト」や「ジャケット(ベルトなし)」が検索結果に混ざることはなく、欲しかった「ベルト」のみをじっくり探せます。

徹底的なユーザー目線で、ECサイトの売上は急成長。

検索ワードから、リアルタイムでユーザーのプロファイリングも実施。どのような価格帯、ブランドを好むかを把握することで、より適切な商品レコメンドを実現します。この機能は、特に購買履歴などのデータが蓄積されていない新規ユーザーに対して有効です。検索ワードを入力しただけで、自分が欲しかったものを表示してくれる。そんなユーザー体験が味わえるのです。

ユーザー体験の向上は、売上げアップに大きく貢献します。UNBXDのアルゴリズムを採用したある化粧品ブランドのサイトでは、検索からのオーダーが45%も増え、売上も約30%アップしました。システムの実装に要した期間がたったの2週間だったことも驚きです。一般消費者向けの商品だけでなく、B2Bのオフィスサプライを展開するECサイトにおいても、検索からの売上が40%、検索セッション毎の収益が35%アップするなど、業績向上に貢献しています。

「意図」の解釈を、未来のテクノロジーに応用する。

単語から「意図」を解釈するUNBXDのアルゴリズムは、ECサイト以外の領域でも活用されるポテンシャルを秘めています。たとえば、スマートフォンやスマート家電に導入されており、今後もさまざまな場所で活用されていくと予想される対話型AIインターフェイス。このAIに意図を解釈するアルゴリズムが応用されれば、さらに自然なやりとりが実現できるはずです。老若男女、誰でも使えるほどに柔軟な解釈ができるようになれば、駅や商業施設での導入も進むでしょう。

しかし現在、UNBXDは日本語の意図解釈には対応していません。現実的に日本で導入を進めるには、日本語の特徴を踏まえたアルゴリズムを開発する必要があります。その際に、テックファームが「しゃべってコンシェル」(NTTドコモ)などの開発で培ってきた日本語意図解釈のノウハウを有効活用できるかもしれません。インドのベンチャーキャピタル・インヴェンタスを通じて、UNBXDとの連携を模索することで、この革新的な技術を新たなテクノロジーへと応用する筋道を、今後も探っていきます。

<補遺 特別寄稿>
<タイトル>
シリコンバレーから見たインドのスタートアップの土台とポテンシャル

<著者プロフィール>
スタンフォード大学アジア太平洋研究所日本研究プログラムリサーチアスカラー
櫛田 健児

<補遺本文>
シリコンバレーの経済圏は、インドとの補完関係を抜きにして語れない。インドの優秀な技術者が、ハングリー精神をもってシリコンバレーに流れ込み、さまざまなIT企業で存在感を高める。あるいはスタンフォードやUCバークレーといった名門大学で最先端分野の研究者となり、大学発のスタートアップに参画する。1990年代の後半から始まったこの大きな流れが、シリコンバレーのエコシステム拡大に深く貢献してきたのは間違いない。

このシリコンバレーでの活躍に併せて、インド国内におけるITスタートアップも活性化した。もともとは大企業の下請けでしかなかった開発会社も、どんどん価値の高い仕事をするようになっていき、それが強力なスタートアップが誕生する土壌に繋がった。

とりわけバンガロールはフォーカスポイントのひとつである。インド国内のさまざまな課題の解決に向けた取り組みは、世界全体にもスケールし得るポテンシャルを秘めている。今後バンガロールがどのように世界レベルの価値創造に貢献していくのか、今から楽しみである。

※本記事は2020年12月に再編集・修正しました。
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