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2021/01/29

5G・XRが3Dモデル技術の真価を引き出す

この記事のポイント
  • ❶3Dモデル技術は、産業や生活を大きく変える可能性を秘めている
  • ❷普及のための課題は、制作コストやスキャン精度、膨大な通信量など
  • ❸XRや5Gといった関連技術が、そうした課題を一挙に解決する鍵となる

ECサイトでの商品紹介から災害シミュレーションまで、さまざまな分野での活用が期待される3Dモデル技術。モデル生成につきものだったコスト的・技術的な課題もクリアされつつあり、安価なXRデバイスや高速データ通信を可能にする5Gなど、3Dモデルの活用環境も整い始めています。これらの技術がどのように応用され、どのような変化を世の中にもたらすのか。業界動向をお伝えします。

3Dモデルで、実現困難なシミュレーションも行える

自動運転技術のテスト走行、医療分野での手術トレーニング、災害時の被害予測──。危険度が高く現実世界では行えない実験を、バーチャル空間で代わりに再現できるのが、3Dモデルを応用したシミュレーション技術です。現在さまざまな分野での応用が期待されており、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。

実用レベルのシミュレーションを行うためには、現実の物理空間を高い精度でスキャンし、限りなく実物に近い精巧な3Dモデルを生成する必要があります。かかるコストも時間も膨大なため、従来はなかなか実用にまで至りませんでした。しかし近年、IoTによるセンシング技術やAIによる演算技術など、関連技術が急速に発展したことによって、実用レベルの3Dモデル構築が一気に現実味を帯びています。

私たちの生活に身近なところでは、EC業界がいち早くこうした3Dモデル技術を取り入れました。販売商品のページに3D表示機能を設け、商品を立体的に確認できるようにしたことで、購入につながる確率が2.5倍も増加した事例も確認されています(出展:Shopifyブログ「もっとリアルな商品ページを実現! 3Dモデルと動画のサポート機能を公開」より)。

ECサイトの商品ページにおける3Dモデル活用イメージ

「もうひとつの世界」の誕生は、もはや夢物語ではない

3Dモデルで特定の事物を再現するだけでなく、現実世界のような空間そのものを創り出したり、現実世界に3Dモデルを重ね合わせたりする技術も実用化が進められています。バーチャル空間技術自体は従来もVR上での展示会やイベントという形で実現されていましたが、今後はそこに精密な3Dモデル技術が加わることで、さらに応用可能性が広がるのです。いわゆる「デジタルツイン(収集した現実世界のデータをもとにバーチャル空間上に再現された、現実の「双子」のようなもの、またはその技術)」です。

たとえば実物大の家具を再現した3Dモデルを、バーチャル空間上に配置し、インテリアをシミュレーションするような技術。あるいは、複雑な構造を持った自動車の部品や配線を、現実の車体に重ね合わせて再現し、整備士の教育に応用する技術などが、実際に実用化され始めています。これらも、3Dモデル技術の精緻化によって初めて可能になるものです。

洋服のシワまで再現されている3Dモデル

コロナ禍で多くの企業がリモートワークを取り入れ、オフィスワークの在り方が変わりつつありますが、職場がバーチャルの世界に移行する日もそう遠くはないでしょう。職場がバーチャル空間になるのであれば、そもそも通勤の概念もなくなり、東京一極集中も緩和されるかもしれません。地方でのんびりと暮らしながら、仕事はバーチャル空間で進める。あるいは趣味やリラックスの時間さえも、自身の3Dモデルを介してバーチャル空間で過ごす。かつて「夢物語」と言われていた暮らしが当たり前になるかもしれません。

5Gの登場で、3Dの世界はより身近なものに

従来、3Dモデル技術を実現する上で壁となっていたのは、次の三つの課題です。一点目は、膨大な通信量を処理する環境。3Dモデルのデータは非常に重く、従来の通信技術ではリアルタイムでの転送が難しい状況がありました。

二点目は、膨大な制作コストです。3Dモデルの制作には専門性の高い技術やツールが必要となり、誰もが手軽に作成できる状況ではありませんでした。その結果、外注費が高額になり、自動車や医療といったコストをかけられる限られた分野でしか技術開発が進まなかったのです。

三点目は、3Dモデル技術を体験・共有するためのアプリケーションやデバイスが限られていること。従来のVRゴーグルは一般ユーザーが所有するものというよりは、愛好家や企業向けに限られたアイテムに留まっていました。

こうした障壁を乗り越える鍵となったのが、2020年3月に商用サービスが始まった「5G」です。4Gまでの通信技術と比較すると、大容量、低遅延、同時多接続が実現されており、リアリティのあるバーチャル空間を実現する下地が整いました。

ここ1年ほどで3Dモデルの作成ツールやXR体験用デバイスの使い勝手も向上しており、一般ユーザーでも手に取りやすいものが増えつつあります。2020年10月に発売された「iPhone 12 Pro」には、光を用いて物体までの距離を測定し、物体の位置や形状を把握することで二次元・三次元の画像を作成できる「LiDAR」機能が標準搭載されました。バーチャル空間をリアルにシミュレートするためのAI技術も急激に進歩しつつある現在。3Dモデル技術の急速な普及に向けて、ようやく役者が揃ってきたと言えるのかもしれません。

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