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2015/12/16

自動車産業は本当にシュリンクするのか?

この記事のポイント
  • ❶現時点で自動車産業は右肩上がり
  • ❷クルマ離れは都心部だけの現象
  • ❸魅力的な次世代自動車も次々に登場

若者のクルマ離れ──。この言葉も、すでに当たり前のものとなっています。戦後の経済発展に大きく貢献した自動車産業にも、かつてほどの勢いはもう残っていない。そんな風に思う人が増えているのでしょう。しかし、自動車産業は本当にシュリンクしているのでしょうか。データから検証してみました。

もしも自動車産業がシュリンクしてしまったら?

自動車一台を構成するパーツは2〜3万点にも及びます。そうしたパーツを手がけているのは、トヨタや日産、ホンダといった大手メーカーではなく、全国に点在する大小のサプライヤー(部品メーカー)。自動車メーカーを頂点にして、1次サプライヤーから4次、5次サプライヤーにいたるピラミッド構造を形成することで発展してきたのが日本の自動車産業です。

したがって、その衰退による影響は大手メーカーだけでなく、必然的に各地のサプライヤーにまで及びます。つまり、自動車産業のシュリンクは、日本の産業そのものの衰退につながっているといっても過言ではないのです。「クルマ離れ」が叫ばれる昨今、不安を感じる業界関係者も少ないないでしょう。しかし、本当に自動車産業はシュリンクしているのでしょうか?

 

保有台数は右肩上がり。

業界がシュリンクしているかどうかの最も分かりやすい指標となるのが、軽自動車を含む乗用車の保有台数です。1970年(昭和45年)は727万台だった乗用車の保有台数は、2000年までの30年間で約7倍の5122万台に。そこからおよそ20年でさらに約1000万台が増加し、2019年の調査では過去最多の6177万台を記録しています(一般財団法人自動車検査登録情報協会調べ)。

近年は増加ペースが緩やかになっているものの、右肩上がりであることには変わりありません。つまり、保有台数の推移からは、自動車産業が衰退しているとは考えられないのです。

「クルマ離れ」はあくまでも大都市圏の現象。

では、「クルマ離れ」という言葉はそもそもどこから出てきたのでしょうか。ポイントは、大都市圏とそれ以外の地域とでの、自動車需要のずれにあります。都道府県別の1世帯あたり所有台数を確認してみましょう。最も所有台数が多いのは、1.743台の福井県。次いで1.709台の石川県、1.684台の山形県と、いずれも冬季の降雪量が多い県が上位に名を連ねます(一般財団法人自動車検査登録情報協会調べ)。

一方で、所有台数が最も少ないのは東京都の0.461台で、これに大阪府が0.66台、神奈川県が0.736台と続きます。公共交通機関が発達し、駐車スペースの確保にかかるコストの高い大都市圏では、自動車の普及率が低いことを如実に示すデータです。

若者のクルマ離れや自動車販売の不振というニュースはこういった大都市圏の数字をベースにしていることがほとんどです。一方、都市部を少し離れてみると、自動車がなければ日常生活に支障をきたすエリアの方がまだまだ圧倒的に多いという現実があります。国内の公共交通網の整備が停滞している現状を鑑みても、もはや生活インフラのひとつである自動車産業がシュリンクするとは考えにくいと言えます。

魅力的な次世代自動車が次々と登場。

もちろん今後、人口減少による需要減の可能性も否定はできません。自動車メーカーも手をこまねいているだけではなく、購買意欲をかき立てる魅力的な商品を次々に市場に投入しています。その代表が、環境性能に優れたエコカーです。世界初の量産型電気自動車(EV)とも言われる日産『リーフ』の登場から10年。EVは、いまや当たり前の選択肢のひとつになりました。2014年にはEVを上回る「究極のエコカー」として、水のみを排出する燃料電池自動車(FCV)『ミライ』もトヨタより発売されました。

そして現在、最も注目を集めているのが自動運転車です。日本では、一定の条件付きで公道を運転できる「レベル3」の実用化に向けて、現在政府による法整備が進みつつあります。それに足並みを揃えるように、各メーカーの動きも加速し始めているのです。したがって、エコカーや自動運転車といった次世代自動車によって、新たなニーズを掘り起こしていけば、今後も自動車そのものの需要が大きく減ることはないでしょう。

※本記事は2020年12月に再編集・修正しました。
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